大川原化工機冤罪事件とは?
逮捕・がん発覚・国家賠償までを時系列で整理
2020年、噴霧乾燥機の不正輸出容疑で3人が逮捕 しかし翌年、公訴取り消しで冤罪が判明。
拘束中に胃がんを発症した1人は治療が遅れ亡くなりました。
2025年5月、高裁は1億6,600万円の賠償を国と東京都に命じています。
1.事件の発端(2020年3月)
- 2020/3/11 警視庁公安部が横浜市の大川原化工機役員3人を逮捕。
- 容疑:外為法違反(噴霧乾燥機を許可なく中国と韓国へ輸出)。
- 当局は「生物兵器に転用可能」と判断したが、同機は粉ミルク製造など民生用途が主。
- 3人は約10か月強(332日)勾留され、6回目の保釈請求でようやく釈放※1。
2.拘束中に発覚した胃がん 治療はなぜ遅れた?
時期 | 出来事 |
---|---|
2020年10月上旬※2 | 相島静雄氏(72)に胃がんが判明 |
10月中旬 | 外部病院で数時間の検査のみ。治療を受けられず拘置所へ戻る |
10〜12月 | 6回の保釈請求をすべて却下(理由:罪証隠滅の恐れ) |
11月初旬※3 | 勾留執行停止が認められ入院。しかし既に肝転移が進行 |
2021/2/7 | 相島氏死去(死因:胃がん末期) |
家族は「拘束が治療を遅らせ死亡につながった」と提訴。
一方、東京地裁は東京拘置所を被告とした民事訴訟で拘置所側の賠償責任を否定し、
因果関係を巡る判断は分かれています。
3.無実と判明 ― 起訴取り消しと国家賠償
- 2021/2/5 残る2人が保釈決定により釈放。
- 2021/7/30 検察が公訴を取り消し──冤罪確定。
- 2023/12/27 東京地裁:国・都に1億6,200万円の賠償命令。
- 2025/5/28 東京高裁:賠償を1億6,600万円へ増額。
- 捜査員が「事件はでっち上げ」と語る内部音声などを考慮。
4.裁判所が認定した3つの問題点
- 誤った輸出規制解釈 経産省が「規制対象外」とした見解を公安部が独自解釈で押し切った。
- 誘導的取り調べ 捜査筋書きに沿う供述を得るため誤解を招く説明を行った。
- 医療アクセスの遅れ 重病と知りつつ長期勾留を継続、治療開始が1か月以上遅延した。
5.「人質司法」議論と改革の動き
国内メディアや法曹界は、本件を「保釈より拘束」を優先する日本の刑事手続の象徴と批判。
具体的には
- 取り調べの全過程録音・録画の義務化
- 弁護士立ち会いの拡大
- 重病被疑者の迅速保釈を定めるガイドライン
こうした改革案は法制審議会・日本弁護士連合会・主要紙社説などで提言されています。
6.まとめ 再発防止へ
- 専門省庁の判断を無視した強引な捜査を防ぐ枠組みづくり
- 保釈要件・医療アクセスに関する透明なルール整備
- 録音・録画・弁護士立会いで取り調べの可視化
大川原化工機事件は、「無実の逮捕」「拘束中の医療遅延」「巨額国家賠償」という3点で
刑事司法の課題を浮き彫りにしました。再発防止の行方に注目です。
【参考】東京高裁判決(2025/5/28)/東京地裁判決(2023/12/27)/NHK・朝日・毎日・産経(2020〜25)/CALL4 特設ページ ほか
※1 読売 2021/2/6 ほか ※2 正確な診断日は未公表 ※3 産経 2020/11/7
最終更新:2025年5月29日